ダイエットで体重を減らすためには、身体をカロリー不足の状態にして体脂肪の燃焼を促進する必要があります。けれども、食べる量を減らせば当然満腹にはならず、空腹感は高まります。もし食欲を抑えることができれば、ダイエットははるかに容易に達成することができるでしょう。というわけで、ダイエットのときには、満腹感が満たされ易く、空腹を感じにくい食材を食べることが重要であることは明白です。一般にたんぱく質の豊富な食事は腹持ちを良くするといわれており、研究レベルでも、たんぱく質の食欲に対する効果を検証した報告が多数あります。
また食事のかさを増やし消化を遅らせることから食物繊維にも注目が集まってきました。グリセミックインデックスの低い食事も、食後の血糖値の上昇を抑制することで食欲の亢進を抑えられるのではないかといわれてきました。それ以外にも、低炭水化物ダイエットでおなじみのケトジェニックな食事や、ヨーグルト、豆類、さらには咀嚼回数との関連なども報告されています。どれもそれなりの効果が報告されていますが、残念ながら今のところはっきりした結論がでているものはありません。ここでは、たんぱく質と食物繊維についての研究結果を詳しくご紹介します。
たんぱく質は理想的なカロリー供給源
たんぱく質は一般的に三大栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)の中ではもっとも満腹感を高める栄養素であると言われています。たんぱく質はまた、ダイエット中の基礎代謝の維持に必要であり、食後熱産生を上昇させる効果も期待されています。
ダイエット中でもエネルギー(カロリー)は何らかの形で摂取する必要があるので、できるなら食欲を刺激せず、満腹感が得られやすく、また空腹にもなりにくい、そして何よりも太りにくい食材が好ましいことは明らかであり、そういう意味では三大栄養素の中でたんぱく質は最も理想的なカロリー供給源にみえます。
それゆえ高たんぱく質ダイエットには多くの期待が集まってきており、実際いくつもの臨床試験*1,*2,*3において減量効果が実証されてきました。ところが食欲に関しては必ずしも一致した結果が得られていません。
ダイエットにおけるたんぱく質の役割に関する研究
2015年に米国ミズーリ大学のヘザー・レイディらは、『米国臨床栄養学雑誌』にダイエットにおけるたんぱく質の役割に関する総説を発表しました*4。この総説では、過去20年以上にわたって報告された、高たんぱく質食の短期的な減量と体重維持に対する影響についてまとめられています。
特にここでは、クロスオーバーデザインのランダム化臨床試験に焦点が当てられています。この試験法は、同一人物がランダムな順番で2つのダイエットを経験する(クロスオーバー)というもので、別々のヒトが別々のダイエットをする場合に比べてバラつきが少なくなり、少人数でも有意な結果を得やすいという特徴があって、最近報告が増えています。もちろん、二つのダイエットの間には最初のダイエットの影響を取り除くための十分な期間をおく必要があります。
過去の論文の文献検索の結果、条件を満たす24件の研究が見つかりました。ここでは食欲に関する点に絞りますが、これら24件中17件の研究で、高たんぱく質食は低たんぱく質食に比べて、食欲関連の指標(満腹感、空腹感など)の少なくともひとつを好転させたことが報告されていました。ところが、続く実際の食事において、摂食量が減少したのは3件に過ぎませんでした。
つまり主観的な食欲の変化は確かに多くの研究で認められているものの、それが客観的に、例えば高たんぱく質の朝食が昼食の摂食量を抑えるかといえば、それほど強い効果はもたないようだ、ということです。科学的根拠という意味では明らかに後者の、客観的な実際の摂食量の方がしっかりした根拠になるので、効果は曖昧だという結論にならざるを得ないわけです。
もっとも本研究の著者らは別の言い方をしています。重要なことは、高たんぱく質食によって食欲は抑えられるか変わらないかであり、食欲が亢進されるという結果は存在していないから、高たんぱく質食は意味があるだろうというのです。著者らの見方によれば、高たんぱく質食には満腹感を高める効果はあるものの、実際の研究においてはそれ以外に食欲に影響を及ぼす様々な因子が存在し、それらがうまくコントロールされていないことから結果の不一致が起きているのではないかということです。
著者らはまた次のように述べています。即ち一般的には同じ食材でも飲料は固形食よりも満足感が低下するので、たんぱく質食においても、それを飲料の形で摂取する方が固形食だけの時よりも満足感は低いと考えられます。今回の24件の研究中、飲料が含まれていたのは3件だけでしたが、5件はヨーグルトなど半流動食が含まれており、これらが知見の不一致を招いているのではないだろうかというのです。
たんぱく質の種類の違いと食欲に関する研究
2016年には米国パデュー大学のジア・リーらは、たんぱく質の種類の違いが食欲に及ぼす最新成果を報告*5した論文の中で、好きなだけ食べられる環境にある時には、たんぱく質の豊富な食事が食欲を満たす上で有益であることは、多くの研究によって証明されているものの、カロリー制限下においては相反する結果が報告されていて、はっきりしたことはわかっていないと述べています。実際、リーらもカロリー制限をかけた条件下で、肉と大豆の比較を試みて、違いは認められなかったと結論付けています。同様の結果が、乳たんぱく質についての総説*6においても報告されています。
たんぱく質が食欲を満たしてくれる効果の原因のひとつに食後熱産生が他の栄養素に比べて高いことが挙げられていますが、食後熱産生に絞って効果を検証した論文*7でも、やはり効果は認められなかったと報告されています。
食物繊維と体重減少に関する研究
食物繊維も、たんぱく質と同様に満腹感を高めることが期待されている栄養素のひとつであり、食物繊維の摂取量の増加が体重減少に結びつくという研究結果が複数報告されています。けれどもこちらもやはり、常にポジティブな効果が報告されるわけではありません。
2013年に『米国栄養学会雑誌』に発表された系統的レビュー*8で、食物繊維が満腹感に与える影響を調べた文献を検索した結果、44件の論文が見つかったと報告されています。そこでは全部で107件の介入試験が分析されていました。用いられた食物繊維の種類は38種類にわたっていました。実験の結果、食欲が有意に低下したのは報告全体の39%であり、さらに摂食量も有意に低下したのは報告全体の22%に過ぎませんでした。複数の論文において満腹感を促進する効果が認められたと報告された食物繊維は具体的には次のものに限られていました。すなわち、β-グルカン、ハウチワマメ殻繊維、ライ麦ブラン、全粒ライ麦、複数の食物繊維を混合した高繊維食です。
また2011年に『肥満学研究』誌に発表された系統的レビュー*9によれば、食物繊維の効果はその粘度に依存しており、粘度の高いペクチン、β-グルカン、グアーガムは、それ以外の粘度の低い食物繊維に比べて食欲を抑える高い効果が認められたということです。また実際のカロリー摂取量も抑えられたということです。とはいえ、全体的な効果としては小さなものであると結論付けられています。
たんぱく質も食物繊維も、食欲に与える効果としてはそれほど強いものではない、ということから2016年1月には、両方を一緒に朝食で食べた場合に昼食の量が減らせるかどうかを検証した論文が『栄養素』誌に発表されていますが、たんぱく質と食物繊維を各々単独で摂取した場合に比べて、併用によってより高い効果を得ることはできなかったと報告されています。
まとめ
以上の結果や他の研究を総合すると、たんぱく質にせよ食物繊維にせよ、ダイエットといっても自由に食べられる環境であれば、確かに他の食材に比べて満腹感を高める効果があって、総摂取カロリーの低下につながり、それゆえ減量に結びつきやすいのは確かなようにみえます。
しかし、摂取カロリーを厳密に制限された状態では、その効果はほとんどなくなってしまうようです。これは、たんぱく質や食物繊維がもたらす満腹感が、おそらくそれほど強い効果をもたないためでしょう。それゆえ、数時間後に食べる食事が実際に減ることもほとんどないようで、ダイエットによる空腹感のほうが強く身体(脳)を支配しているからだと思われます。生き物はとにかく栄養欠乏にならないように食べられるだけ食べるのが本能になっているためでしょう。
結論としては、たんぱく質や食物繊維は「魔法の弾丸」というわけではないけれども、それなりの効果が期待でき、特にカロリー制限をしないダイエットにおいては、有効な手段となってくれるように思えます。たんぱく質の種類は特に何でも良さそうですが、液体は止めた方が無難なようです。
参考文献
*1 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3359496/
*2 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10375057
*3 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16002798
*4 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25926512
*5 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4772027/
*6 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3941822/
*7 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3873760/
*8 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23885994
*9 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21676152
Author Profile
- 薬学博士
- 専門は栄養学。科学的根拠に基づいた栄養知識の普及啓発に努めています。
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